ライブコマースは、インターネットの発達と情報デバイスの普及によって登場したマーケティング手法です。オンライン販売とライブ配信を掛け合わせた手法で、ユーザーは実際に接客をされているような体験ができます。
コロナ禍の長期化による外出自粛で、オンライン店舗で買い物をする消費者が急増していますが、ライブコマースはリアルタイムで質問や発言をすることができるため、売上の向上へプラスに作用します。
マーケティング担当の初心者や、今後担当になる可能性を持つ人に向け、ライブコマースの最新の動向やメリット、成功事例をご紹介します。
目次
ライブコマースとは
ライブコマース(live commerce)とは、インターネット上で生放送の動画を配信して、動画内で商品やサービスを紹介・販売する手法を指します。配信により、従来のオンライン店舗では難しかった「リアルタイムの接客」ができるようになりました。
また、知名度があるタレントや一般人のインフルエンサーといった、影響力・親近感を持った人がライブ動画に出演することで集客がしやすく、視聴者の購買行動を促進する仕組みとなっています。
テレビショッピングはイメージとして近いですが、ライブコマースとテレビショッピングの違いは、インタラクティブ性にあります。インタラクティブとは、「相互に作用する」という意味を持つ英語です。
テレビショッピングが一方向に発信する手法であることに対し、ライブコマースでは視聴者はリアルタイムで出品者や販売者に対し質問やコメントができ、臨場感を持って購入の是非を決められます。
ライブコマースの流行
ライブコマースは、2016年の中国で、ECサイトでの活発化で注目されました。
ECとは、electronic commerce(エレクトロニックコマース)の略で、電子商取引を意味します。ECサイトは「自社商品(もしくは他社商品も含む)やサービスを販売する、独自運営のWebサイト」を指します。
<引用元:中国ニュースサイト:Weinan Net>
2016年、中国でのライブ配信サービスの利用者は3億2500万人に達し、インターネットユーザー総数の45.8%を占めたと言われています。また、2015年の10月から2016年の5月にかけて、ライブウェブキャストの数は52.71万人から85.85万人へと、38.6%の増加が見られたとあります。
中国を拠点とする企業、アリババグループのECサイト『淘宝(タオバオ)』では、1人で年間50億円を売り上げたインフルエンサーも登場し、ライブコマースが注目される要因のひとつとなりました。消費者人口が豊富な中国で流行したライブコマースは、諸外国にも注目され、広まっていきます。
日本でのライブコマースの動向
マーケティング・リサーチ会社『マクロミル』は、2018年7月に、ライブコマースの利用状況について調査データを公表しました。
<引用元:株式会社マクロミル 運用サイト【HoNote】>
上の図は、ライブコマースサービスの認知状況を、世代別にグラフ化したものです。
10代から40代を対象にしたところ、10代の認知度で40%、40代の認知度は21.5%となっています。統計全体からの認知度は29.7%で、若い世代ほどライブコマースを知っていることがわかります。
<引用元:株式会社マクロミル 運用サイト【HoNote】>
ライブコマースサービスの視聴と購入の経験を表す調査結果からは、視聴と購入の経験がある人が、男性は19.7%、女性は7.3%です。女性に比べて、男性のライブコマース利用者数が2倍以上であることがわかります。
<引用元:株式会社マクロミル 運用サイト【HoNote】>
ライブコマースサービスで、具体的に何を購入したのかも、統計が出ています。上位5品目の中で、『服』の購入率が他を引き離して1位となっています。
<引用元:株式会社マクロミル 運用サイト【HoNote】>
ライブコマースサービスの今後の利用意向に対するアンケートでは、84.8%の回答者が「今後もライブ配信を視聴し、買い物をすると思う」と返答しています。若年層から親しまれた動画配信サービスとして、今後もライブコマース市場は伸びていくことが予想されます。
ライブコマースのメリットとは
ライブコマースのメリットとなる特徴を、3つのポイントにまとめました。
コミュニケーションによる購買意欲の向上
ライブコマースサービスでは、ライブ配信中にコメント欄で、双方向からのやりとりが可能です。単に商品情報が紹介されるよりも、配信者を通してのコミュニケーションが視聴者の「買い物」という行動への満足感を高めます。
「モノ消費からコト消費へ」と言われるようになった昨今では、「気に入った商品(モノ)を買う」に加えて、「自分が好きな配信者とやりとり(コト)をして買う」という点に、需要があると言えます。
従来のECサイトにあった不安感の改善
従来のECサイトでは、記事や画像、一面からの一方的な動画しか無く、消費者は「本当に、期待どおりの商品なのだろうか?」と思い、商品到着までは現物を確認できません。ライブコマースサービスでは、ライブ動画で多角的に商品を紹介し、視聴者は提示される商品情報を納得できるまで吟味できます。
さまざまなジャンルでのマーケティングに導入が可能
ライブ動画で商品を紹介する、というシンプルな仕組みなので、さまざまなジャンルのマーケティングに活用できます。
- 販売する商品やサービスはどのようなものか?
- ターゲット層の設定と、影響力を見込めるふさわしい配信者の決定
- ライブ動画の配信媒体
といった戦略を用いれば、ライブコマースは効果を発揮するでしょう。
ライブコマースのデメリットと注意点
ライブコマースはオンライン上での商品販売手法により、多くの利点がありますが、デメリットも存在します。以下は、ライブコマースのデメリットの代表例3つです。
事前準備に手間やコストがかかる
ライブコマースは、録画された動画ではなく生配信であるため、事前に準備が必要となります。具体的には、以下のようなものが挙げられます。
- 配信用の機材や設備の準備
- 配信内容の企画や構成
- 出演者の選定や教育
- 視聴者への事前告知
これらの準備には、時間や費用がかかります。また、配信内容や出演者のスキルによっては、視聴者の期待に応えられなかったり、逆効果になってしまったりする可能性もあります。
ライブ配信者のスキルが必要
ライブコマースは、商品の魅力や特徴を視聴者に伝えることが重要です。そのため、ライブ配信者のスキルが求められます。具体的には、以下のようなものが挙げられます。
- 商品知識やプレゼンテーション能力
- コミュニケーション能力
- 臨機応変な対応力
ライブ配信者のスキルが不足していると、視聴者の興味を引くことができず、販売につながりにくくなります。
配信環境や運用体制のトラブルが起きる可能性がある
ライブコマースはリアルタイムでのビデオや音声のストリーミングを必要とするため、安定したインターネット接続が不可欠です。遅延や途切れがないような高品質の接続を確保することが重要で、接続が不安定だと視聴者が見るのを止めてしまう可能性があります。
また、ライブコマースでは、特に配信中に注文が集中することがあり、その際に円滑に注文に対応できる運用体制が必要です。また、配信が終了した後も注文処理がスムーズに行われるような体制が欠かせません。
ライブコマースに向いている商品やサービス
ライブコマースに向いている商品やサービスは、以下のようなものが挙げられます。
視覚的な効果が期待できる商品
ライブコマースは、動画配信で商品の魅力や特徴を視聴者に伝えることができます。そのため、見た目や使い心地が重要な商品は、ライブコマースに向いています。具体的には、以下のようなものが挙げられます。
- アパレル
- コスメ
- 食品
- 家電
- インテリア
トレンド性の高い商品
ライブコマースは、リアルタイムで商品の情報を発信することができます。そのため、トレンド性の高い商品は、ライブコマースに向いています。具体的には、以下のようなものが挙げられます。
- 新商品
- セール品
- 限定品
ターゲット層が明確な商品
ライブコマースは、視聴者と双方向のコミュニケーションが可能です。そのため、ターゲット層が明確な商品は、ライブコマースに向いています。具体的には、以下のようなものが挙げられます。
- 女性向け商品
- 若者向け商品
- 特定の趣味や嗜好を持つ人向け商品
また、ライブコマースは、視聴者の質問やコメントにリアルタイムで回答することができます。そのため、購入を検討しているユーザーの疑問や不安を解消できるような商品やサービスは、ライブコマースに向いています。
なお、ライブコマースは、商品の販売だけでなく、ブランディングや認知度向上にも効果的です。そのため、新規事業や新商品のPRにライブコマースを活用することも検討できます。
ライブコマースに向いていない商品やサービス
ライブコマースに向いていない商品やサービスは、以下のようなものが挙げられます。
視覚的な効果が期待しにくい商品
ライブコマースは、動画配信で商品の魅力や特徴を視聴者に伝えることができます。そのため、見た目や使い心地が重要ではない商品は、ライブコマースに向いていません。具体的には、以下のようなものが挙げられます。
- 書籍
- 音楽
- ソフトウェア
- サービス
トレンド性が低い商品
ライブコマースは、リアルタイムで商品の情報を発信することができます。そのため、トレンド性が低い商品は、ライブコマースに向いていません。具体的には、以下のようなものが挙げられます。
- 定番商品
- ロングセラー商品
ターゲット層が不明確な商品
ライブコマースは、視聴者と双方向のコミュニケーションが可能です。そのため、ターゲット層が不明確な商品は、ライブコマースに向いていません。具体的には、以下のようなものが挙げられます。
- 万人向け商品
- 幅広い世代向け商品
また、ライブコマースは、視聴者の質問やコメントにリアルタイムで回答することができます。そのため、購入を検討しているユーザーの疑問や不安を解消できないような商品やサービスは、ライブコマースに向いていません。具体的には、以下のようなものが挙げられます。
- 複雑な商品やサービス
- 専門的な知識や経験が必要な商品やサービス
なお、ライブコマースは、商品の販売だけでなく、ブランディングや認知度向上にも効果的です。そのため、新規事業や新商品のPRにライブコマースを活用する場合は、商品の魅力や特徴を視聴者にわかりやすく伝えられるような配信内容を検討する必要があります。
ライブコマースの配信方法の選び方
現在、日本で展開されているライブコマースサービスは大きく分けて3つに分類されます。
- SNSのライブコマースサービス
- ECモールのライブコマースサービス
- その他のライブコマースサービス
ライブコマースに関心を持つマーケティング担当者は、登録してみて閲覧したり、実際に購入したりすると、体感として理解しやすいでしょう。
確認するポイントとしては、以下のものが挙げられます。
- 取り扱っている商品やサービス
- 配信者であるタレントやインフルエンサー
- ライブ動画システムの操作性・使用感
- 配信動画のクオリティ
また、コメント欄を「視聴者の生の声」として見れば、有益な市場情報の傾向として役立つでしょう。
SNSのライブコマースサービス
SNSのライブコマースサービスは、ユーザーとの親和性が最も高い手法です。親和性はユーザーと自社の関係構築により、購買率の向上が期待できます。
また、他のサービスと比較してコストが安く抑えることができます。そのため、小規模な企業や個人事業主でも、ライブコマースを実施しやすいのが特徴です。
Instagramのライブコマース「Live Shopping」は、2020年11月に開始されたサービスです。Instagramでライブ配信を行うことで、視聴者に商品やサービスの魅力や特徴をわかりやすく伝えることができ、配信中に商品を購入できる機能も提供されています。
YouTube
YouTubeのライブコマース「ショッピングライブ」は、2020年12月に開始されたサービスです。YouTubeには、動画の再生数や視聴時間などのデータを取得できる機能が充実しています。そのため、ライブ配信の成果を分析したり、ライブ配信を他のマーケティング施策に連携したりすることができます。
TikTok
TikTokのライブコマース「TikTok Shopping Live」は、2022年6月に開始されたサービスです。TikTokは、10代から20代といったZ世代に人気のあるSNSで、若年層をターゲットとしたライブコマースを実施したい場合に適しています。
また、TikTokはショートムービーの投稿が主流のSNSであり、エンターテイメント性が高いのが特徴です。そのため、ライブコマースをエンターテイメントとして演出することで、視聴者の興味を引きつけ、購買率向上につなげることができます。
ECモールのライブコマースサービス
ECモールは、すでに多くのユーザーが登録しています。そのため、ライブコマース配信を行うことで、多くのユーザーに商品やサービスをアピールすることができます。
それぞれに特徴や違いがあるため、自社の商品やターゲット層に合わせて、最適なモールを選ぶことが重要です。
楽天市場「楽天ショッピングチャンネル」
楽天市場は、日本最大のインターネット通販モールです。会員数は約2億人、出店店舗数は約45万店と、圧倒的な規模を誇ります。既に多くの会員が登録していることから、楽天市場でライブコマースを配信することで、多くのユーザーに商品やサービスをアピールすることができます。
また、楽天市場は、楽天グループの強みを活かしたサービスが充実しています。例えば、楽天ポイントや楽天ペイなどのサービスと連携することで、よりユーザーは便利と感じ、購買意欲が促進されるでしょう。
Amazon「Amazon Live」
Amazonは、世界最大のインターネット通販モールです。会員数は約3億人、出店店舗数は約300万店と、楽天市場に次ぐ規模を誇ります。
Amazonは、世界最大のインターネット通販モールです。会員数は約3億人、出店店舗数は約300万店と、楽天市場に次ぐ規模を誇ります。Amazonは、商品の品揃えが豊富で幅広い商品を取り扱っています。そのため、さまざまな商品をライブコマースで販売することができます。
その他のライブコマースサービス
紹介したSNSやECモールの他にも、ライブコマースサービスを提供しているサイトは多数存在します。特徴として、ライブコマースサービスに特化しているメディアが多く、中にはライブコマースの企画・制作・配信・販売までを代行するサービスもあります。
自社でライブコマースを実施する時間やリソースがない場合に、活用してみてはいかがでしょうか。
SHOPROOM
SHOPROOM(ショップルーム)は、DeNAの子会社である「SHOWROOM(ショールーム)」が提供するライブコマースサービスです。サービス開始第1回の際、女優の北川景子さんがドラマ内で着用していたファッションブランド「NEMISSA(ネミッサ)」を紹介したことでも話題になりました。
配信者のタレント2人が、「NEMISSA」の特徴や着こなし方を紹介し、ライブ画面下方のバナーをクリックして購入ができる旨まで案内をしました。リアルタイムでユーザーに購入を働きかけられるという、ライブコマースのメリットを生かした事例と言えます。
Live Shop!
Live Shop!(ライブショップ)は、単に商品をアピールするだけでなく、配信者のモデルに「メイク術」や「ファッションコーディネート」を実演してもらうことで、訴求力を向上させているのが特徴です。
また、ライブ動画はスタジオで撮影されたものが主流で、クオリティを追求している点も好評を得ています。運営会社の『Candee』は、2015年の設立以降、ライブ配信や動画の企画・制作・配信までを一括で手掛けてきた企業です。タレントやインフルエンサーへのネットワークの充実さを活かしたサービス展開と言えるでしょう。
MimiTV
MimiTV(ミミティービー)は、メイク・ヘアアレンジ・ネイルなどを、人気モデルの配信により紹介するライブコマースサービスです。ライブ動画の配信以外では、2018年11月に東急ハンズのTwitter公式アカウントと連携し、リップが抽選で当たるキャンペーンを展開する等、PRに注力しています。
10代から20代の女性をターゲットに、美容情報に特化した動画メディアとして展開しているので、ターゲット層を絞れる商材を扱う企業にとっては活用しやすいでしょう。
ライブコマースの成功事例3選
ライブコマースが成功するためには、以下の3つのポイントが重要です。
- 商品の魅力や特徴をわかりやすく伝える
- 視聴者と双方向のコミュニケーションを重視する
- 購買率を向上させる仕組みを導入する
ライブコマースは、うまく活用すれば、商品の販売やブランディング、認知度向上に大きな効果が期待できるマーケティング手法です。しかし、成功するためには、事前準備をしっかりと行い、配信内容や出演者のスキルにこだわり、効果的な施策を検討する必要があります。
ライブコマースで成功した事例は、国内外で数多くあります。その中でも、特に注目を集めた成功事例を3つ紹介します。
ユニクロ「UNIQLO LIVE STATION」
ユニクロが2020年に開始したライブコマース「UNIQLO LIVE STATION」は、配信開始からわずか1年で、累計視聴者数1000万人を突破しました。同社では、商品の魅力や着こなしをスタイリストが紹介する動画配信に加え、視聴者からの質問やコメントにリアルタイムで回答するなど、視聴者と双方向のコミュニケーションを重視しています。また、ライブ配信中でも商品を買うことができる仕組みを導入することで、購買率の向上にもつなげています。
三越伊勢丹「三越伊勢丹 LIVE CHANNEL」
三越伊勢丹が2019年に開始したライブコマース「三越伊勢丹 LIVE CHANNEL」は、老舗百貨店の強みを活かし、高級ブランドや限定品などの商品をライブ配信で紹介しています。また、視聴者からの質問やコメントにリアルタイムで回答するだけでなく、スタイリストがコーディネート提案を行うなど、視聴者の購買意欲を高める工夫をしています。
資生堂「SHISEIDO LIVE COSME」
資生堂が2020年に開始したライブコマース「SHISEIDO LIVE COSME」は、美容のプロが化粧品や美容グッズを実際に使用しながら、その魅力や使い方をわかりやすく解説しています。また、視聴者からの質問やコメントにリアルタイムで回答するなど、視聴者の疑問や不安を解消することにも注力しています。
ライブコマースをマーケティングに活用しよう
ライブコマースは、インタラクティブなライブ動画をリアルタイムで使用できる、現代の新しいマーケティング手法です。自社で扱う商品やサービスの特性を把握し、適切なライブコマースのプラットフォーム情報を収集して、効果的な販売展開をしていきましょう。
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