マーケティングにおいて「インサイト」とは、消費者の潜在的なニーズや欲求を理解することです。インサイトを理解することで、消費者が気づいていない課題や悩み、潜在的なニーズを把握することができます。
これをもとに新たな商品やサービスの開発、マーケティング施策の立案などにつなげられます。本記事では、インサイトとの特徴と消費者インサイトの見つけ方、企業の成功事例などを解説します。
インサイトマーケティングのインサイトとは
インサイト(insight)とは、直訳すると「洞察」や「直感」、「発見」といった意味合いを持ちます。消費者の気持ちを洞察し、それに必要なものやコトなどを発見することを示しています。
インサイトは「顧客インサイト」「消費者インサイト」などと表現するケースもありますが、意味合いとしては同じです。競合他社との差別化を図る際には、消費者自身も気づいていない欲求を丁寧に深掘りすることが求められます。
現代ビジネスにおけるインサイトの重要性
現代の消費者は商品やサービスに対してのこだわりが増え、顕在化したニーズを満たす商品はすでに市場に存在しています。
また、消費者の潜在化したニーズを捉えただけの商品を開発しても売れる時代ではありません。そこで重要になるのが、消費者自身も認識していない欲求や悩み、つまり「インサイト」です。
インサイトを理解することで、消費者が気づいていないニーズを満たす商品やサービスを開発することや、競合他社との差別化を図ることができます。現代は購買チャネルの増加や情報の氾濫によって、消費者の選択肢は無限に広がっています。
そのような状況下で、消費者のインサイトを理解することは、自社のファンを増やし、ロイヤルカスタマー(商品・サービス・企業に愛着心を持つファン)の育成にも役立ちます。
インサイトの3つのメリット
インサイトを分析することで、消費者の潜在的な欲求や悩みがわかります。
ここではインサイトの3つのメリットをご紹介します。
新たな製品・サービスが誕生する
近年話題になっている「サブスクリプションサービス」も、インサイトに基づいたビジネスモデルのひとつです。消費者は、自分の好きなものを必要な分だけ、定額料金で利用できるようになります。
これは、消費者の「必要なものを必要な分だけ購入したい」という欲求を満たすものです。その欲求や悩みを解決する製品やサービスを開発することで、新たな価値を創造することができます。
消費者との関わりを強化できる
製品やサービスを提供することで、消費者は「この企業は、私たちのことを理解してくれている」という信頼感を持つようになります。
消費者から「この企業の製品・サービスなら間違いない」という信頼を獲得することで、消費者との結びつきを強化することも可能です。
シェアの拡大
新しい製品やサービスは、既存の製品やサービスのシェアを拡大するチャンスです。マーケットシェアを拡大することで自社が有利な立場に立ち、価格のコントロールや自社の収益率を最大化できます。
大量仕入れが可能となり、メーカーや流通業者との価格交渉を有利に進めることもできるでしょう。人気製品で市場シェアを高めれば、値引きに応じなくても売れるため、収益率をさらに上げることが可能です。
インサイトの注意点
インサイトをストレートに表現すると、消費者の感情を逆なでする可能性があります。例えば、ダイエットをしたいと思っている女性をターゲットにした広告で、「太っている人は嫌われる」というメッセージを発信すると、女性のモチベーションを下げてしまう可能性があります。
インサイトには根拠が必要であるため、アンケート調査や行動観察調査など、さまざまな手法を用いて裏付けを取ることが大切です。また、インサイトは可視化するのが難しいため、定期的に顧客インサイトのフレームワークを埋めるなどして、自分の理解度を測っておきましょう。
消費者のインサイトを見つける方法
消費者インサイトとは、消費者自身も気づいていない本音や先入観のことです。消費者の行動や思考の背後にある、深層心理を理解することで、顧客満足度の向上やサービス改善に役立ちます。
データの収集
消費者インサイトを把握するためには、まずデータの収集が必要です。
データの収集は以下の4つの方法があります。
調査方法 | 概要 | メリット | デメリット |
アンケート | あらかじめ設定した質問に回答してもらう手法 | 多くの人に調査を実施できる | 回答者の本音が見えにくい |
インタビュー | 二人かそれ以上の間での会話で、一方が他方に質問をして評価・情報を得る手法 | 回答者の本音を引き出しやすい | 調査対象者の数に限りがある |
行動観察(エスノグラフィ) | 言葉だけではなく動作やその環境を実際に観察する手法 | 回答者の本音や行動の裏側を理解しやすい | 調査対象者の同意や協力が必要 |
ソーシャルリスニング | 投稿情報から分析を行う手法 | 回答者の本音が見えやすい | 調査対象者の属性や意見の偏りが出る可能性がある |
この中で最も増えている調査方法がソーシャルリスニングです。ソーシャルリスニングとは、Xやブログなどのソーシャルメディア上で交わされるユーザーの自然な会話を収集・分析する調査方法です。
従来の調査方法であるアンケート調査やインタビュー、行動観察調査と比較して、調査の設計やスクリーニング調査といった事前の準備がほとんど不要です。ユーザーが自発的に投稿した内容を収集するため、より正直な声が聞ける可能性が高いといった特徴があります。
データの分析
データの収集が終わったら、次はデータの分析を行います。ソーシャルリスニングやアンケートから得た文章データは、テキストマイニングで情報を抽出しましょう。
テキストマイニングのメリットは、以下の3つです。
アンケートや商品レビューのような大量の文章を分析できるため、従来は分析が難しかった消費者の潜在的なニーズを把握できます。
文章という定性的なデータを定量的に分析できるため、消費者の感情や評価を客観的に把握できます。
テキストマイニングとAIの組み合わせにより、より高度な分析が可能になりました。自然言語処理技術を用いることで、消費者の口コミやSNS上のコメントから、商品やサービスに対する感情や評価をより細かく分析できます。 |
テキストマイニングはSNS分析に強いタイプからオペレーターの会話などにおける「話し言葉」の分析に適したタイプなどさまざまです。どのテキストマイニングが最適かを判断することで、カスタマーエクスペリエンスの向上や業務改善に役立てられます。
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フレームワークの作成
データの分析が終わったら、次はフレームワークを作成します。フレームワークとは、消費者インサイトを整理するための枠組みです。
また、そのインサイトの「見える化」には、共感マップの作成が有効です。共感マップとは、ターゲットユーザーの置かれている状況や思考を図でまとめたものです。
共感マップの要素は、以下の6つです。
- 考えていること・感じていること(Think And Feel)
- 見ていること(See)
- 聞いていること(Hear)
- 言っていること・行動していること(Say And Do)
- 傷み・ストレス(Pain)
- 得られるもの(Gain)
そもそも、「共感」とは、「同じ感情を感じること」です。仕事で悩んでいる同僚の話を聞いているときに、「自分も同じような経験をしているからよくわかる」と感じることがあります。
このように相手が持っている、嬉しいや楽しいなどの感情に対して同じ感情を持つことです。マーケティングにおいては、ユーザーの感情を理解してニーズを見いだすことが、顧客の課題や欲求に対するアプローチ方法を考える際に有用になります。
インサイトを活用したマーケティングの成功事例
ここからは企業のインサイト成功例を2つご紹介します。
chocoZAP
chocoZAPは、2022年7月にサービスを開始したばかりのジムですが、わずか1年で日本一の会員数を獲得しました。ここで、chocoZAPのインサイトを見てみましょう。
顧客が感じていること(課題) | 世間のニーズ | 隠れた欲求や問題(インサイト) | 価値の提供 |
ジムはガチ勢が行く場所。 | かっこよくなりたい。きれいになりたい。 | 着替えが面倒くさい。 | どんな格好で運動しても大丈夫。 |
chocoZAPのコンセプトは、「着替え不要!入館から5秒で運動できるジム」です。
これまでジムに通ったけど、やめてしまった人たちの「ジムに通うハードルが高い」というインサイトを突いたものです。仕事帰りや家事の合間に、気軽に運動をすることができるという点を訴求したことで、多くの支持を集めました。
ユニクロ
ユニクロは、フリースの爆発的なヒットにより一躍有名になったが、ブームが去ると新たなヒット商品を生み出せず、売り上げが減少しました。そこでユニクロは以下のようなインサイトを発見し、再び成長を遂げています。
顧客が感じていること(課題) | 世間のニーズ | 隠れた欲求や問題(インサイト) | 価値の提供 |
ユニクロの商品はどれも同じ。 | 自分らしさを表現したい。 | 流行を追うのはわずらわしい。 | 豊富なカラーやコラボ商品の展開。 |
性別や年齢層を問わず誰もが着られるベーシックな商品や、トレンドを意識した商品、著名人とのコラボ商品などを展開し、多様なニーズに対応するようになります。全50色のフリース、UT(ユニクロ ティー コレクション)やジル・サンダーなどのブランドとのコラボを展開し、消費者の選択肢を広げました。
近年、消費者の環境意識が高まっていることを背景に、ユニクロは持続可能性への取り組みも強化しています。リサイクル素材を使用したウェアの販売や、自社で回収した古着の再利用などを行い、環境に配慮した商品やサービスを提供しています。
これらの取り組みにより、ユニクロはブランド価値を高め、再び消費者の支持を集めるようになりました。
顕在ニーズや潜在ニーズとの違い
顕在ニーズとは顧客自身が欲しい商品やサービスを自覚している状態です。
顕在ニーズ | 「美味しいコーヒーが飲みたい」 | 「おしゃれな服が欲しい」 |
潜在ニーズは欲求はあるが顧客自身が明確な悩みに気づいていない状態を指します。
潜在ニーズ | 「仕事で疲れたときに癒されたい」 | 「自分らしさを表現したい」 |
潜在ニーズをさらに深掘りした深層心理に顧客インサイトがあります。消費者自身がまだ意識していないかもしれない、あるいは表現することが難しい隠れた欲求や問題のことです。
顧客インサイト | 「誰かに甘えたい」 | 「自分を肯定したい」 |
このような欲求や問題は、消費者自身も明確に認識していないことが多いですが、 それに応える商品やサービスを提供することで、消費者の満足度を高め、新たな需要を創出することにつながります。
まとめ
インサイトとは、消費者が気づいていない本音や欲求を理解することです。消費者が気づいていない本音や欲求を理解することで、新たな商品やサービスを生み出したり、競合他社よりも優位に立ったりすることができます。
そのためには、消費者の深層心理を理解する必要があります。消費者の深層心理を理解するためには、アンケートやインタビュー、行動観察などの調査方法を活用できます。自社に合った調査方法で消費者インサイトを発見し、新たなニーズを掘り起こしマーケティングに活用しましょう。