顧客獲得に効果的なフレームワークとして長年重宝されてきた「マーケティングファネル」ですが、インターネット・SNSの普及により、顧客の購買行動が複雑・多様化し、顧客の行動を十分にとらえきれていないとも言われています。
本記事では、マーケティングファネルが古いと言われる理由と、最新の動向や効果的な活用例について解説します。
マーケティングファネルとは?
マーケティングファネルとは、顧客がサービスを認知してから購入に至るまでのプロセスを図に表したものです。
ファネルの基本知識
ファネルとは、英語で「漏斗(ろうと・じょうご)」のことです。顧客が商品を認知して、購入するまでの購買行動を図で表すと、逆三角形のろうとの形になることから、「マーケティング」と合わせて「マーケティングファネル」と名づけられました。
実際に顧客が商品を認知し、購入するまでのプロセスを図に表すと、次のようになります。
カスタマージャーニーとの違い
マーケティングファネルと近い言葉に「カスタマージャーニー」がありますが、その違いは視点です。
カスタマージャーニーもまた、マーケティングファネルと同様、消費者が購買までに至るプロセスを指します。ただ、カスタマージャーニーが重視するのは、消費者の心理状況と行動です。
認知・興味関心・比較検討・購入のフェーズにおいて、消費者がどんなことを感じ、考えているのかを考え、それぞれのタッチポイントを導き出します。
一方、マーケティングファネルでは、消費者の行動と人数の推移を重視します。カスタマージャーニーは、マーケティングファネルの補完として活用すると良いでしょう。
マーケティングファネルの重要性と活用によるメリット
マーケティングファネルを用いることで、顧客が商品やサービスを購入するまでの過程を明確にできます。
また、どの部分がうまく機能しているか、どこに改善が必要なのかを判断することができます。
これにより、コンバージョン率の向上、エンゲージメントの強化、効果的なマーケティング戦略の立案が可能となります。
代表的なマーケティングファネル活用法3つ
マーケティングファネルは、大きく3つの種類に分けられます。
- パーチェス(購買)ファネル
- インフルエンス(顧客維持)ファネル
- ダブルファネル(購買×顧客維持)
それぞれについて詳しく解説します。
パーチェス(購買)ファネル
マーケティングファネルの中でもっとも基本となる型です。「パーチェス(purchase)」が「購買」という意味があることから「購買ファネル」とも言われ、購買に至るまでの心理プロセスの流れを示した「AIDMA(アイドマ)」モデルが基になっています。
AIDMA(アイドマ)モデルは「Attention(認知する)→Interest(興味を持つ)→Desire(欲しいと感じる)→Memory(記憶する)→Action(購入する)」の流れです。
これにファネルの考え方を当てはめると、フェーズごとの状況が可視化できます。上記の図のように、「比較・検討」で数が大きく減少しているとなった場合には、比較するコンテンツ不足が考えられます。ファネルの一番下にあたる「購入する」段階までの施策見直しが、重点的に改善できます。
一般的にファネルというと、このパーチェスファネルを指します。
インフルエンス(顧客維持)ファネル
インフルエンスファネルは、顧客が商品を購入した後の行動を表したものです。順番としては、「継続」→「紹介」→「発信」と三角形のように数が増えていく図となります。AISAS(アイサス)という別のモデルが基になっています。
AISAS(アイサス)モデルは、「Attention(認知する)→Interest(興味を持つ)→Search(検索する)→Action(行動する)→Share(情報共有する)」の流れです。
インターネット上での、消費者の発信力の高まりとともに生まれたモデルです。AIDMAとの大きな違いは、Search(検索する)、Share(情報共有する)が入ることです。それまでの「購入」をしたら終わりのパーチェスファネルから、検索エンジンやSNSの普及により、購入後の行動も考えることが大切になってきました。
インターネット上の口コミやレビューといった、購入後の行動に重点を置くようになった考え方がインフルエンスファネルです。
上記の図で説明すると、購入まで行った消費者が、ファン化し継続して、実際に商品を使います。購入後に、口コミやSNSで紹介・発信します。購入者が共有する行動から、新たに別の消費者の目に届き、大きな宣伝効果につながります。
ダブルファネル(購買×顧客維持)
パーチェスファネルとインフルエンスファネルを合わせたのが、「ダブルファネル」です。パーチェスファネルとインフルエンスファネルの2つを使うことで、認知度や購入率、継続率など顧客行動をトータルで分析します。
ダブルファネルは、購入を目指すパーチェスファネルと、消費者行動が企業から個人に移ってきた最近のインフルエンスファネルを組み合わせて、相乗効果を期待しています。
考え方としては、商品やサービスのファンとなった購入者がSNSを使って、友人や知人へ紹介し、新たなファンを作っていくというものです。ダブルファネルは、購入者が口コミやSNSなどで紹介することで、さらに新しいファン層をつくり、消費の循環が生まれるという顧客行動をトータルで分析します。
マーケティングファネルが古いと言われる理由3つ
「マーケティングファネルは時代にあっていないので役に立たない」といった意見も出ています。
なぜ、マーケティングファネルは古いと言われるのでしょうか?その理由と本当に有効な考え方ではないのか?を解説していきます。
消費者行動が一直線ではなくなったため
ファネルはもともと、「一直線の購買モデル」と言われます。インターネットが普及する前は、商品情報が現在よりも少なく、顧客が得た情報に興味を持てば購買に至ることが一般的でした。しかし、インターネットが普及した現在、顧客はWebサイトから自分で情報を収集します。
多くの情報を参考にして、複数のサービスを比較検討することが可能になり、必ずしもファネルの規格化されたモデルに当てはまらなくなってきたのです。
また、Webサイトで情報収集している際に、偶然表示されたジャンルが違う商品に興味が出て、はじめに求めていた商品に興味を失う場合もあります。
たとえば、車の情報を探していたら、いつの間にか旅行について調べていたという行動です。検索が終わっても、しばらくした後にまた検索を再開して、結局は車の購入につながるというものです。つまり現在のユーザー行動は行ったり来たりを繰り返す、一方通行ではなくなってきているわけです。
多元化する消費者の価値観
また、消費者の価値観はインターネットの普及やライフスタイルの変化などから多元化しています。同時に、対象となる商材や年代により価値観や嗜好も複雑化しています。
たとえば、同じ洋服を買うにしても、値段では購入しない消費者が増えました。多種多様のサイズや色があることで、より自分に合った商品か検討してから購入に至るようになったのです。
購買後の行動が不透明
最近は、一度商品を買った人がインフルエンサーとなって口コミで他の人に購入を促す例が多くなってきています。
また、商品やサービスも、モノの購入ではなく、シェアリングやサブスクリプションといった「体験の提供」へと変わってきています。パーチェスファネルは基本的には「購入」をゴールとしていて、こうした新たな提供形態もカバーしきれないのが問題になっています。
ただし、BtoBでは今でも有効なモデル
では、ファネルの考え方は時代に合わないのでしょうか?上記の話は、BtoCでの活用の話です。BtoBでは今でも、マーケティングファネルの考え方は有効です。
例えば、企業が会計ソフトの入れ替えを考えた場合に、会計ソフト販売会社を探していたのが、いつの間にか電気会社を探していた、といったことはないでしょう。次々と興味や関心が移っていく一般消費者のような探索行動は、ビジネスの現場ではほとんど起こらないのです。
BtoBでは商品の選定者と決裁者が異なることが多く、社内で承認を得る必要があります。購入までに関与する人の多さや、購入するまでに協議を重ねること、さらに決定要因がさまざまなことから、BtoCより複雑と言われます。
しかし購入までのプロセスを考えるとシンプルと言えます。また、基本的にBtoBは購買まで興味が一貫して変化しません。個人の価値観が入る余地が少ないことも、ファネルは有効です。
最新トレンドのマーケティングファネル
最新のトレンドとなるマーケティングファネルには、次の4つがあります。
マイクロモーメントファネル
マイクロモーメントファネルは、Googleが提唱する「マイクロモーメント」という考え方に基づいて作られたファネルです。
マイクロモーメントとは、認知や比較検討フェーズが存在せず、消費者の「今すぐ〇〇したい」という意思から行動までを意味します。
スマホの普及により「今すぐ」何かの行動を取ることが可能になった現代において、マイクロモーメントファネルは重要なフレームワークと言えます。
関連記事:Googleが提唱「マイクロモーメント」をマーケティングに活かす方法
フライホイール
フライホイールはHubSpotが提唱する循環型ビジネスモデルです。従来の一方向的なファネルモデルとは異なり、既存顧客の評価や口コミを活用し、エネルギーを循環させることで成長を促進します。
フライホイールは「Attract(引き付け)」「Engage(関係構築)」「Delight(満足させる)」の三段階で顧客をプロモーターに転換し、継続的な成長を目指します。
BtoCだけでなくBtoBにも有効な手法です。
ルーピングファネル
ルーピングファネルは、現代の複雑な購買行動を円形で示すマーケティングモデルです。
「認知」から「購入」そして「発信」までのプロセスをループで表現し、各フェーズで消費者が検討・留まる様子や特定フェーズをスキップするケースにも対応します。
多様な購買行動を分析しやすくし、従来の直線的なファネルよりも柔軟に消費者の行動を捉えることができます。
消費者の意思決定ジャーニー
引用:The consumer decision journey|Mckinsey
消費者(顧客)の意思決定ジャーニーは、2009年にアメリカのコンサルティング会社、マッキンゼーが提唱したフレームワークで、消費者の購買プロセスを「検討」「評価」「購入決定」「購入後の体験」の4段階に分け、循環するモデルです。
このモデルは、消費者がブランドとどのように関わり、意思決定を行うかを示し、主要なタッチポイントを通じて顧客の購買決定に影響を与え、リピート購入を促す「ロイヤルティループ」を目指します。
マーケティングファネルの効果的な活用例とコンテンツ例
次に、マーケティングファネルを使った、より効果的な活用例はあるのでしょうか?具体的な活用例やコンテンツ例を紹介していきます。
顧客数の分析での活用
各段階の顧客数の変動を把握すれば、問題点や課題が明確化します。どの段階で顧客が離脱しているのかが分かれば、部分的にマーケティング施策を見直しでき、PDCAをするときにも活用できます。
また、段階ごとに消費者心理の移り代わりについても併せて分析できるので、「ペルソナ」作りに活かせます。ペルソナをもとにしたコンテンツの出し方や、ターゲットに合せたメール配信といった、質の高いマーケティング施策の実現にもつなげていけます。
アプローチ法での活用とは?
企業がどの段階で顧客接点を設定するのか、段階別に効果的なアプローチ法を決められます。例えば、興味を持ちクリックしてLPに訪れる割合が低い場合は、広告のクリエイティブを変更し、ターゲットを変更する必要があります。
他にもインフルエンスファネルで「発信」が思ったより少ない場合は、SNSでの紹介キャンペーンを実施し、何かしらのインセンティブを設定することなどが考えられます。
興味・関心段階のコンテンツ例
できる限り多くの見込み客に、商品やサービスを認知してもらうことが大切です。プレスリリース、SNS、広告、オウンドメディア、SEOなどが有効です。
比較・検討段階のコンテンツ例
見込み客になってもらうことが大切です。顧客に寄り添ったトライアルや体験談といったコンテンツを用意します。体験モニター、デモンストレーションやトライアルキャンペーンなどが有効です。
購買・受注段階のコンテンツ例
顧客の購入のための後押しをすることが大切です。購入後もお得な情報を伝え、サポートやロイヤリティを高めます。連絡先や製品サービスの詳細情報を明確化し、問い合わせをしやすくするなど、購入までの具体的な記載が必要です。無料トライアルや割引券、サポートやキャンペーン情報なども重要になってきます。
まとめ
マーケティングファネルのもっとも基本的な考え方は、「認知→興味・関心→比較・検討→購入」というプロセスを辿ります。3つのファネル型を活用することで、「問題があるのはどの段階か」「段階ごとに打つべき施策は何か」といったことが分かります。
一方で、ファネルは時代にそぐわないという意見もありますが、今なおBtoBでは有効なモデルです。現代の複雑化したマーケティング施策では、施策は合っているのか判断に迷いがちです。ぜひ、情報と考えを整理できるファネルを活用してみましょう。きっとビジネスモデルや販売戦略を考える上での指標になるはずです。